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Poison & Medicine ブログ 毒と薬

2022.1.20

豊寿苑

エッセイ

誰のためのワクチン接種?

当施設では、2022年1月11日から職員に対する3回目のワクチン接種を始めました。

施設でのクラスター発生の原因はたいがい職員が持ち込んだウイルスなので、1月21日から「まん延防止等重点措置」が適用されるギリギリのタイミングでほぼ全職員が接種できたことに少しホッとしています。

「ほぼ全職員」というのは、本人の意思で前回同様、接種を受けなかった職員が一人だけいます。

昨年、医療従事者ワクでの優先接種が始まる時、本人から接種しない申し出がありました。

「ワクチンを打つと血栓症になると聞いたから」というのが理由です。

その人物は利用者とじかに接する仕事ではないものの、建物内に出入りするし、なによりも本人が感染リスクの高い高齢者なので、アレルギーや急性疾患を抱えているわけでもないことから、ぜひ接種してもらいたいとわたしはこう説得を試みました。

「英国で血栓症が報告されたのはアストラゼネカ社製のワクチンであって、今度打つのはファイザー社製だから心配しなくてもいいですよ」

「それに血栓が起こりやすいのは男性より女性、とくに若い女性と聞いているのでまず大丈夫ですから」

それでも、かれは「5年後に血栓症になるとまわりの人たちが言っていた」という根拠のないガセ情報を真に受けて、ついに首を縦に振りませんでした。

そのかれですが、週2日勤務で利用者との接点がほとんどないことからこれまで大目に見てきましたが、今回のオミクロン株の急速な感染拡大でついに出勤停止を申し渡しました。

かれは指示に従いましたが、納得できないようでした。

先日、フランスのマクロン大統領は、未接種の感染者急増が病床を圧迫している事態を受けて「うんざりさせてやる」と発言し物議を醸しました。

接種しなければ、飲食店、文化施設、公共交通機関などを利用できなくするフランス政府の「ワクチンパス」はやり過ぎだとわたしは思います。

しかし、未接種者は本人が感染しやすいだけでなく、感染した場合、他人にうつすリスクが3倍近い高さになるなどと、どんなに言葉を尽くしても、自分に関しては感染しないと思い込んでいるひとを前にして、「うんざりさせてやる」と罵りたくなる気持ちもわからないではありません。

3回目のワクチンを打った職員のなかにも、本当は気は進まないけれども、重症化リスクの高いご利用者の安全を守るためにはやむをえないとしぶしぶ接種したひとも少なくないはずです。

本人の意思を尊重したうえで、感染対策の徹底を図りたい施設の意向と相容れなかったのですから、そのペナルティは甘んじて受け入れるべきでしょう。

強権国家ではない多様な意見を尊重する民主主義の国だからこその悩みなんでしょうね。

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