Poison & Medicine ブログ 毒と薬
2021.6.9
豊寿苑
エッセイ
新型コロナ クラスター奮闘記(4)
第4章 「介護が必要な方の入院は難しい」
看護師の感染が判明後、最初のPCR検査を実施した翌12月11日、金曜日の午後8時前、相談員から私のところに連絡がありました。今しがた検査結果が送られてきて、咳や発熱症状があった入所者4人のうち、3階の1人を除く3人に陽性反応が出たとのことでした。
急いで施設に駆けつけると、相談室では検査結果を知らせに来た診療所の院長、2人の相談員、施設の看護師が深刻な表情で向き合っていました。私も加わって5人で今後の対応について夜遅くまで話し合いがおこなわれました。
まずは感染者の入院先の確保です。
高齢者施設で入所者が感染した場合、重症化リスクが高いことから、厚労省は原則入院としています。
さっそく陽性が判明した入所者3人の家族に来てもらい、院長が本人の状態と今後の対応について説明したうえで、転院先をいくつか当たりました。しかし、午後9時過ぎだったこともあってか、すべて断られました。「認知症がある人は受けられない」とけんもほろろだったそうです。
折悪しく、週末の夜遅い時間だったことから、管轄の春日井保健所、愛知県高齢福祉課、小牧市介護保険課へは翌12日、土曜日の朝に連絡を入れました。
同じ日の朝、咳と微熱の症状で急きょ隔離した4階入所者についても、抗原検査の結果、陽性と判明。これで入所者では4人目の感染が確認されました。
翌13日、日曜日、4階入所の2人に新たに感染が確認されました。これで看護師を除いて6人目。
くどいようですが、高齢者施設で感染者が出た場合、原則入院となります。入院調整をおこなうのは保健所の役目です。しかし保健所からいわれたのは「介護が必要な方の入院は難しい」という言葉でした。
要するに「介護が必要な人たち」を対象とする豊寿苑の感染者は入院できないといいたいのでしょう。
これより少し後の話ですが、保健所の担当者と入院先の受け入れについて話し合っていたとき、施設での感染者より医療体制がない在宅の感染者を優先して入院調整していると聞かされました。
一理ありますが、重症化リスクの高い人たちが近い距離で集団で生活している施設はクラスターの温床といってよく、そのほうがよほど危険です。しかも、”三密”を避けるといった危険認識が希薄な人たちなのです。
結局、この日も、次の日も感染者の入院先は見つかりませんでした。この時分になると入院先の探すのに保健所は頼りにならないと相談員たちはあきらめていました。感染者は6人は37度台前半の微熱で状態が比較的安定していたのがせめてもの救いでした。
週が明けた14日朝、院長のもとにさくら病院から電話があり、最初に陽性が確認された3人のうちの2人を受け入れてもらえることになりました。しかし、入院できたのはこれが最後でした。
この続きは次回