Poison & Medicine ブログ 毒と薬
2015.2.26
豊寿苑
介護社会論
良い「気」と悪い「気」〜 新年会/インフルエンザ/豆まき
しばらくのごぶさたでした。
ご報告したように、今年1月20日頃から当苑でインフルエンザの集団感染が発生しました。スタッフ一丸となって治療と感染の拡大防止に努め、ようやくインフルエンザが終息してきたと思ったら、今度は胃腸風邪が流行。
日頃から未然の感染対策を心がけてきたつもりでしたが、このような結果を招いてしまったのは、私たちの取り組みに足りないところがあったということです。深く反省し、教訓として今後の備えに活かしていきたいと思います。
今回の集団感染のきっかけは、1月18日(日)に開催した「新年会」でした。
新年会は、ご利用者とその家族の方々が席を並べて食事をしながらめでたい演し物を楽しんでいただく毎年恒例の行事です。今年はご利用者とご家族、合わせて約100名の方々に出席いただきました。
今年は沖縄民謡の濱盛重則(はまもりしげのり)さん(通称ハマちゃん)と宮野ほたるさん、そして、エイサーを演じる二人の若者が来てくれました。
三線(さんしん)の弾き語りで次々と繰り出される、明るく、ときにペーソスに溢れた島唄、童謡・唱歌たち。後半は沖縄の派手な衣装に身を包んだ男女の若者二人は、ハマちゃんの歌に合わせて雄壮な太鼓パフォーマンスを披露してくれました。アンコールでは、私を含むスタッフたちも音楽に合わせて沖縄踊りをしながらご利用者の席をまわりました。例年以上に、にぎやかで盛り上がったイベントでした。
ところが、その日の夜当たりからご利用者に体調不良者が出てきました。検査してみたところインフルエンザであることが判明。おそらくご家族を通じてウィルスが持ち込まれたと思われます。新年会を開くようになって20年近くになりますが、このようなことは初めてでした。
小牧駅から徒歩2分で、いつでも気軽に家族と会える風通しのよさが当施設の売りでもあったのですが、今回はそのことが仇になってしまったようです。
今回のことで一部のスタッフから、集団感染のあるなしにかかわらず、インフルエンザの季節には家族や知人の面会を制限すべきだとの意見も出ました。しかし、家族から引き離され、ただでさえ寂しい思いをされているにちがいないご利用者なのに、面会の機会を制限してしまうというのはあまりに不憫です。現場としてリスクを最小限に抑えたい気持ちは理解できますが、それは子どもたちが事故を起こさないように公園から遊具を撤去してしまうのと似て、本末転倒だと思います。
2月3日の節分の日、インフルエンザが終息に向かってきたこともあって、厄を祓いたいという願いから豆まきの行事を実行しました。
日本人は古くから、良いものも、悪いものも、共同体の外からやって来る、目には見えない空気のようなもの、「気(キ)」であると考えていました。そして、良い「気」は 〈カミ〉 、悪い「気」は 〈鬼(キ/オニ)〉 とされました。悪い「気」の最たるものが「病気」です。
現代の医療では病気は、人間の科学と技術によって制圧されるべきものです。しかし、昔の人たちにとって病気を治すとは、外へ追い出すこと、つまり払う=祓うことでした。豆まき/鬼やらいはそういうものでした。〈鬼〉をおだてて〈カミ〉として「祀(まつ)り上げる」ことが「祭り」の起源とされますが、〈鬼〉を外に追い出す代わりに、内に封じ込めるという違いはありますが、考え方は同じでしょう。
今回、集団感染という苦い経験をして、人間が自分たちの都合のいいように自然をコントロールしようとする考えがいかに思い上がりであるかということを思い知らされました。どんなに心がけていても、災厄が身に降りかかることは避けられません。いまさらリスク・マネージメントというヤボな言葉を使うつもりはありませんが、人間は最終的には自然に逆らえないことを受けとめたうえで、災厄とどう対していくかが問われているのだと思います。