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Poison & Medicine ブログ 毒と薬

2013.10.23

診療所

介護社会論

命を守るのは設備よりも人〜福岡の有床診療所火災を受けて

10月11日未明、福岡市にある有床診療所(19床)で火災が発生。

入院患者と前院長夫妻の計10人が亡くなられました。 この報に接したとき、まず思ったのが「火の元がほとんどないはずの診療所でどうして火災が?」ということでした。 続報で出火元はリハビリ室にある温熱療法に使うホットパック装置とのこと。装置のプラグ(差し込む方)を長い間、コンセント(差し込まれる方)に差し込んだままにしておいたために、コンセントとプラグの間にほこりがたまり、ほこりが湿気を呼び込み、プラグの絶縁状態が悪くなって発火したということでしょう。「トラッキング現象」と呼ばれているものです。

ホットパック装置とは、ホットパックを温めておく熱湯の水槽のこと。当法人のリハビリ室にもありますが、お湯を使うことから、コンセントは差し込み口が下を向いたカバー付きの防水コンセントにするのがふつうです。しかもプラグをコンセントにねじ込む仕様なので、プラグとコンセントとの間にほこりがたまるすきまはほとんどありません。ということは、今回の火災でリハビリ室のホットパック装置が火元だったというのが本当なら、コンセントは防水タイプではなかったと考えたほうがいいと思います。

リハビリ室のホットパック装置。フタを開けたところ

リハビリ室のホットパック装置。フタを開けたところ

ホットパック装置のプラグは防水コンセントに差し込んである。

ホットパック装置のプラグは防水コンセントに差し込んである。

もうひとつ、個人的に気になるのは、火災時、鉛のピンが熱で溶け自動で閉まるはずの防火扉が作動しなかったせいで被害が拡大したといわれている点です。

今回の火災を受けて、当法人でも緊急に火災設備の点検をおこないました。
とくに塚原外科・内科には、2階と3階の一部に、福岡の有床診療所と同じ19床の入院病床があり、同じようなタイプの防火扉と防火シャッターが設置されています。指摘されているように、これらは建築基準法の対象であり、消防法の点検項目ではないことから、防火管理者である私自身、今回の点検で初めてくわしく動作確認した次第です。

そのとき思ったのは、この程度のシンプルな構造なら、もし防火扉が自動で閉まらなかったとしても、夜勤の看護師が手動で防火扉を閉めに行くことはできたかもしれない、ということです。

当診療所の防火シャッター。点検は天井裏のヒモを引いて手動でおこなう。

当診療所1階の防火シャッター。

そのほかにも有床診療所にスプリンクラー設備の設置義務がなかったことが指摘されています。たしかにスプリンクラーが備わっていれば、あれほどまでの被害にはならなかったと思います。
塚原外科・内科は、福岡市の有床診療所と同じく、転換型の療養病床19床の「有床診療所」です。「病院」に長期間、入院するのが難しく、といって老人保健施設に入所するには医療的なニードが高く看護師による見守りが常時必要なお年寄りがおもに入院されています。
患者一人あたりの保険給付額は、診療報酬改定のたびごとに下げられ、患者さんからいただく室料がなければ完全に赤字経営というのが実情です。今回の火災を受け、有床診療所にもスプリンクラーの設置の義務づけが検討されているようですが、そうなれば、おそらく病床を閉鎖するしかないでしょう。

当診療所2階の病棟廊下。左に防火扉。上が避難誘導灯。右が避難階段。

当診療所2階の病棟廊下。左に防火扉。上が通路誘導灯。右が避難階段。

当診療所2階の病室廊下の防火扉を閉めたところ(病室側から撮影)。

当診療所2階の病室廊下の防火扉を閉めたところ(病室側の廊下から撮影)。

このように、今回の有床診療所の火災についてハード面の不備ばかりがいわれていますが、気になるのは火事に最初に気づいた看護師の不可解な行動です。「外に出て、通りかかったタクシー運転手に通報を頼んだ」という新聞報道が本当なら、従業員への防火管理教育はちゃんとおこなわれていたのか、疑問を持たざるをえません。大切なのは、通報、初期消火、避難誘導など、従業員への防火管理意識の徹底です。防火管理教育が従業員にしっかり行き届いていなかったことが被害が拡大した大きな要因だったのでは、私は考えます。

当法人では、6月と11月の年2回、豊寿苑と外科・内科の従業員を対象にした消防訓練をおこなっています。たまたま11月に夜間想定訓練の実施届出書を消防署に提出しようとしていた矢先に今回の火災がありました。
そこで今回は急きょ内容を変更して、豊寿苑ではなく診療所の1階から深夜、出火したとの想定で通報、初期消火、避難誘導訓練をおこなうつもりです。

大切な命を守れるのは、最終的には設備や機械ではなくひとなのです。

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