Poison & Medicine ブログ 毒と薬
2014.12.18
豊寿苑
介護社会論
認知症と音楽療法〜映画『パーソナル・ソング』を観て【3】
最後に、映画を観たスタッフたちに感想をまとめておきます。
みな感動していたようでした。なかには涙が止まらなくなったスタッフもいました。
同時に、自分たちの介護のあり方を反省するいい機会になったという意見も多く寄せられました。
いっぽうで、現場ならではのこんな意見もありました。
「本人にとってはたしかにいいことだと思いますが、これをおこなうには家族の理解と協力が不可欠です。ただ、そうまでして家族がそれを望むとは考えにくい気がします。本人以上に家族のニードをいかにかなえられるかが私たちの仕事になっていますから。」
「何年間も歩行器を使って移動していた人が、音楽を聴いて突然、自力でダンスを始めたシーンがありましたが、もし転倒して骨折でもしたらどうするのか、とヒヤヒヤしながら観ていました。」
映画で向精神薬が投与されているシーンがありましたが、豊寿苑では強い抗精神病薬こそ使っていませんが、睡眠薬が処方されることはあります。このことについて、認知症が重い人たちのフロアを担当しているスタッフはこういっていました。
「夜間に大声で騒ぎ立てたり、暴れまわったりする人がいると、他の入所者にまで影響が出てしまうのでやむをえないと思う。」
「それは理解できるが、こうしたことが繰り返されるうちに睡眠薬投与が常態化してしまう点についてどう思うか」の問いに、当人が黙ってしまったので別のスタッフが答えました。
「睡眠薬の服用は入所前からのケースが大半です。なかには自分から睡眠薬を要求される方もいるぐらいです。」
要するに「自分たちのせいじゃない」と。現場のスタッフも「当事者主権」について頭ではわかっていても、慢性的な人手不足にあえぐ介護の現場で日常業務を遂行していくとなると、個人の自由よりも安全を第一に考えざるをえなくなって、それが免罪符となって感覚が麻痺してしまうという悪循環です。
だからといって、彼らばかりを責めるのはお門違いで、私をはじめ、事業者、行政、家族などにも問題はあります。介護人材の不足といい、介護財源の問題といい、受け皿としての家族や地域共同体の弱体化といい、「本人のためにパーソナル・ソングを!」とどんなに思っても、それをサポートする側の足腰がこんなに不安定なのではとてもやりきれない、というのが現場の正直な声なのです。
(終)
※ 映画『パーソナル・ソング』は、2014年12月6日から全国の映画館で順次公開しています。(2014年12月18日現在)
※ 『パーソナル・ソング』についての私の映画評は、2014年12月20日発売予定の『ミュージック・マガジン』1月号に掲載されます。